「まずもたねばならぬものは、家。そして、それは最後に手放すべきものでもある。なぜならば、家は下界の墓なのだから」。
これは、モロッコの有名なことわざ。
そして家のなかでも最も重要な位置を占めるのが、中庭(パティオ)です。 中庭は家族団らんの場であり、思想と瞑想の空間であり、家のなかを自由闊達に行き来するためのパッサージュでもあります。
イスラムの考え方では、庭は地上の天国と考えられています。乾燥しがちなモロッコでも、庭はまさにオアシスそのもの。たいていのパティオは、床がタイル張りで、幾何学的な形状です。中央に植物のためにささやかな噴水があり、水の音と小鳥のさえずりだけが静かに響く空間です。オレンジの木やスィプレなどの低木があり、ジャスミンや薔薇の香りが漂ってくる、そんな命の息吹きを感じさせます。そして、透かし彫りや鉄格子で光が遊んでいるようにみえる「光と影の空間」でもあるのです。
こんな中庭は、モロッコでは何よりもの富裕の象徴です。高級車でもなく、広い家でもなく、ブランドのアクセサリーでもなく、素敵な庭。もちろん、金持ちでなければ理想の庭をもつことは至難の技ですが、庭がもてない人も、植木鉢や切り花で日常生活に多く取り入れています。中庭の植物の繁茂などは、壷やモロッコ絨毯などの雑貨のモチーフになったりしています。庭への愛着がさまざまなモノに反映されているのです。