素人の反乱と棟梁2.0の誕生
byカトラー
現代の家づくりにおいては、せっかく『普請』をしたのに、やがて『不審』探しが始まり、ついには『不信』を募らせる結果となっているという迎川さんの指摘には、思わず「そうなんです」と頷かされました。
住宅に関する情報が、様ざまなメディアに溢れかえっています。そうした情報に晒された結果、建て主も作り手も耳年増状態になり、互いに疑心暗鬼に陥りやすい状況が生まれているといえるでしょう。昔は全てを承知した棟梁と長年の信頼関係のある旦那が、阿吽(あうん)の呼吸によって家がつくられていた幸せな時代が存在しました。しかし、残念ながら、そうした牧歌的な関係は崩れてしまいました。作り手からは、「棟梁」が消え、建て主からは「旦那」が消え、両者の間には寒々とした関係が残りました。その結果、家づくりは、地域に根ざした家業であることをやめて産業化する道を選び、結果的にサラリーマンが家をつくるようになったのです。迎川さんは、住まいづくりのあるべき姿を患者と主治医の関係に擬えていますが、そうした施主と作り手との全人的な関係を取り戻すことはできるのでしょうか。
昔の家づくりは棟梁が全てを仕切っていました。現場で手下の大工たちを使って家を作り上げていく棟梁の姿は、子供心にも本当に頼もしくカッコよく見えたものです。だったら、昔の姿に戻せばよいのかといえば、そう単純にはいかない。仮に昔の棟梁をタイムマシンでこの時代の現場に連れてきたとしても、残念ながら、その輝きは見る影もなく色褪せてしまうでしょう。複雑化した建築基準法や通信・IT機器とのインターフェイスなど、現代では建物以外の問題も含めて、家づくりを考えなければならない状況になっているからです。「ビフォーアンドアフター」というリフォームを題材とした番組が人気を呼んでいますが、あの番組に紹介されているような改築をしてくれといわれて、立ち往生してしまうケースがままあるといわれます。善し悪しは別にして、メディアの影響によって施主側の家づくりに対するイメージばかりが暴走しているきらいがあり、昔気質だけでは、とても対応できる状態ではないのです。
このことは別の見方をすれば、情報化が進んだ結果、専門家と素人の垣根が低くなって安定した関係を作りにくくなった現象といえるのかも知れません。大工の棟梁に限らず、学校や町医者の先生、地域の中で専門家として尊敬を集めていた人々の肩身がドンドン狭くなっています。迎川さんが、例としてあげられている患者と主治医の関係も、かつてのように医者は治療行為の全てを任せられる神のような存在ではなく、パートナーとして患者に対して治療・予防に関する適切な情報と選択肢を示す役割が何よりも重要になっています。迎川さんとやりとりをしている、このブログについても同じことがいえます。私は一応メディア業界に身を置いてきましたが、家づくりの専門家の迎川さんと、こうしてメディア上で直接キャッチボールをするということは、少し前まで考えられないことでした。
家づくりの領域でも、実は素人の反乱が始まっているのではないかというのが、密かに抱いている私の仮説です。昔の家づくりの良い点を継承することは、大切ですが、この基本の流れを見失うと、「昔は良かった」式の単なるノスタルジーに陥ってしまいます。プロと素人の関係が変わり、素人が色々物申す存在に進化したとすれば、プロの方も当然のことながら変わらなければなりません。
もう、昔には戻れない、もと来た道を逆戻りすることなどできないのだということを、どんな業界のプロフェッショナルたちも自覚する必要があるでしょう。あのカッコよかった棟梁は、そのままでは、使い物にならないというホロ苦い認識を持つことから全てを始めることが必要なのです。
現代の家づくりが抱える課題に応えるプロフェッショナルとしての新しい「棟梁」の姿。あまり好きな言葉ではありませんが、Web2.0などに倣って、あえてそれを「棟梁2.0」と表現するなら、一体どんな姿になるでしょう。
ぜひ迎川さんにも、ご意見をもらえればと思うのですが、私は次のようなイメージを持っています。
① 家のことを色々知っていて、施主の家づくりを助け、施主に対して説明責任を果たす人である。
② 家づくり、家守りを施主のパートナーとなってマネジメントする人である。
③ 土地のこと、環境のことを考え、地球環境を守ることについても地域のリーダーとなってはたらく人である。
前稿でも確認したように、家とは工業製品のように、商品棚から買うものではなく、それぞれの土地柄と環境に即して建てるものであるということが、まず前提となります。棟梁2.0は、そうした家づくりを施主の立場に立って助ける存在になるべきでしょう。Web2.0の世界では、CGC(消費者自身が作るコンテンツ:Consumer Generated Contents)という言葉がありますが、今後は、施主自身がDIY(Do It Yourself)で家を建ててしまうという事態さえ視野に入れる必要があるかも知れません。すなわち、棟梁2.0は、Web2.0などと同様に、徹底した川下志向、顧客志向に立つべきと考えます。「ナントカ系列」といわれるように、今の工務店さんは、どちらかというと、ハウスメーカーや建材・設備メーカーに顔を向けて仕事をしている傾向があります。そうではなくて、徹底してお客の立場から家づくりを考えてくれるプロフェッショナルが地域に必要だと思うのです。工務店の皆さんが、真の意味で顧客志向になった時に、棟梁2.0は自ずと生まれてくる…こんな私の考えは、結局、無い物ねだりになってしまうのでしょうか。
2007年07月19日 21:44 by yamada
やっぱり昔には戻れませんよね。昔を懐かしむって、どこかに敗北感がついてしまいます。